Biologicalな思考を楽しむ

アカデミアと社会の境界線を再認したい

生物の最小単位「細胞」について考えてみる

                               人間は60兆個の細胞によって構成されている

 

生物界隈では有名なフレーズですが、本当に60兆個なのかな?と疑いの目をかける猜疑心もアカデミアには必要なのかもしれません。この60兆という数字の妥当性は他の記事で解説するとして、この記事では生物(学)の基本単位「細胞」に着目して記事を書いて見たいと思います*。

 

今回の目標は前回の「学問」と「勉強」の違いというやや概念的な記事を「細胞」をキーワードに具体的に捉えること、になります。前回の記事はこちら。

 

 

*一言で「細胞」と表現しても、例えばヒトの細胞(真核細胞)と大腸菌(原核細胞)には大きな差があるだけでなく、大学では専門的な研究分野の数だけ話の切り口があると考えられます。そこで、詳細を別の記事に譲るとして、本稿ではヒト細胞だけを用いて目標達成に迫ります

 

細胞と聞くと、真ん中に角があってなどの細胞の姿をなんとなく頭に思い浮かべることができると思います(例えば、Wikipediaや細胞の画像をwebで検索してみてください)おおよそ一般的なヒトの細胞には以下の5つの構成要素からなっていることがわかります(詳細は別記事で)。

 

1.  核

2. 細胞小器官

(膜に囲まれた構造体で、ミトコンドリアや小胞体、リソソームなどがある)

3.  細胞骨格

(骨のように硬いものがあるわけでないが、細胞は水風船のようにパンパンに膨らんでいる訳ではなく、ファイバー構造のタンパク質によって形と機能が保たれている)

4. 細胞質

(細胞の何も書かれていない部分だが、タンパク質や脂質、リボソームなどがぎっしりと詰まっている。さながら満員電車のよう。)

5. 細胞膜

 

大学では、免疫染色と呼ばれる手法で可視化して細胞を蛍光顕微鏡で観察することや、電子顕微鏡で観察すると、実際に1~5の構成因子を観察することができます。さて、重要なことは、このおおよそ事実と言えることはWikipediaや教科書に「さも当たり前かのように記載されている」ので、ここでは実際の歴史の流れを汲んで書き直してみましょう。

 

例えば、自分が世界で初めて実用的な顕微鏡を作った研究者だとしたら、

 

     幸運か偶然か今でいう「細胞」のような何かを初めて発見する

 

ことができる...かもしれません。そして、詳細な観察を続けると、同じような四角い形をした構造が連続していることがわかった。そこで生物の最小単位で機能する構造体であろうと考え、「細胞」名称し「論文」という形で観察結果に記載し世界に公開する。そうすると世界中で同じような研究が始まり、次第に細胞には細胞小器官がある、とか核があるとか観察結果が蓄積されてくる。そうこうして知見がたまると、その分野でまとめが必要となるので先駆者の自分は、自分の発見だけでなく世界中に波及して見つかった事実をまとめ上げ「総説」という新しい学術書を作成し次の観察結果をまた得ていく。こうして、生物における「細胞」の意味を解き明かし細胞生物学という新しい分野の開拓者となる。

 

現在教科書や辞典に載っている説明は、時代とともにこの「総説」が蓄積し、おおよそ真実であろうとされる生命現象の写像と抽出を繰り返したものと言える。翻って、当時研究してきた人々は「細胞」の発見がどれくらい重要で、後世にどんな影響があるかよくわからないが、「細胞」には色々な機能があるし興味深い(平たく言えば面白い)から研究してみようとどんどん推し進めてきた結果、(偶然)細胞を理解した事になる。

 

わざわざ書き直した理由は、この知識だけを学ぶのが「勉強」であり、新しい生命現象のフロンティアを開拓していくのが「学問」なのである。なんとなくLive感のある研究の方がワクワクするストーリーに感じるような気もするのは、私だけであろうか。

 

話を具体化すると、

Q 細胞にとって重要な構成要素を5つ書きなさい。

A 核、細胞小器官、細胞骨格、細胞質、細胞膜     こちらは勉強

A うーん、そうですね今実験してるのでわかりません が、あと、2年後くらいを目処に論文にまとめられるとお思います。こちらは「学問」

 

となるわけである。

 

以上をまとめると、大学に入ると高校までに学んだ勉強の基礎(論文を読んだり、教科書を読んだり=答えのある問題を解く技術)を用いて、「学問」となる疑問を自ら立てなくてはならいのである。さらには、その疑問の重要性を社会に向けて発信しより良い社会を実現していくことがアカデミック研究の真骨頂であると思います。ここは本当に重要で、このトランジションができないと大学は楽しくないと感じてしまうわけだが、本当は自由で非常に楽しい知的な遊戯ができる場なのである。もちろん、バイトやサークル、恋愛も人生には大切で等閑にしてはいけないと思います。しかし、せっかく努力して大学に入学したのですから、少しでも学問の楽しさに触れられたらいいなと思っています。結論としては、この段落を理解してもらえれば、この記事の目標は達成です。

 

補遺:

「学問」的な問いの建て方は難しいのかと言われると、別にそうではない、と考えている。子供のような好奇心が重要だったり、冒頭に書いた教科書の知識を疑う猜疑心が重要だったりする。私が細胞で思いつく疑問を以下に書いておく。気になった方は研究してみてほしい。本当に教科書が書き換わることもあるし、ノーベル賞に繋がる可能性もあるが、外れる可能性もある。そこが研究の面白いところである。(すでに論文があったら申し訳ないが、考える澪標となればと期待する)

 

細胞にまつわる「学問」的な問い

1. なぜ核は常に中央にあるのだろうか?

核が真ん中にない変異体は取れないのだろうか?核が真ん中になければ不具合があるのか?がん細胞はどうなのだろう?また、細胞は移動するのだが、なぜ核の位置は保存されるのだろう

2. 細胞は自分の大きさが見えないのに、だいたい人間の身長は150-200cmにくらいになるのだろうか。

これは身長だけでなく、手の大きさなども同様でどうやって判断しているのだろう?

3. 細胞小器官の数はどのように規定されているのだろう。

例えばミトコンドリアがなくなってしまった細胞は存在するのだろうか?

 

などであるが、一般的には専門知識など不要で基本的であり誰でも思いつける質問が多い。しかし、実際には(常識と判断するなどの原因で)思いつかないこともしばしば。自分の頭でしっかりと考えてみれば生命現象にはわからないことだらけなので、自分を研究者になぞらえて、教科書に載っている図やを自分で取得したと仮定し、教科書に載っている解説を見る前に自分で「学問」的な問いを立て、自分で仮説を立てて生物学をより楽しんでほしい。その積み重ねが「勉強」から「学問」への橋渡しとなる。テストの点数を取っても大学までの人となってしまう。せっかく勉強したのだから学問も楽しんでほしい。